第1章 プロローグ
「んーっ!クリア!」
ここは公安局刑事課一係オフィス内。俺は椅子に腰かけたまま、ぐーっと伸びをして、持っていた携帯型ゲーム機を机の上にぽん、と投げる。因みに、今は勤務時間内。本日の世の中は平和らしく、出動要請もない。だからこうしてオフィス内でゲームに勤しんでいた。ゲームなんてしていようものなら、ガミガミメガネが五月蝿いところだが、ギノさんは会議中で只今不在。神は俺に微笑んでくれたらしい。ここにいるのは俺とクニっちだけ。クニっちはイヤホンで音楽を聴きながら、音楽雑誌をめくっている。お互い、我関せずといった感じで、それぞれに暇を潰している、いつもの日常。
何となく、たった今クリアしたばかりの携帯ゲーム機に目をやった。今クリアしたのはRPG。剣やら魔法やらを使ってダンジョンをクリアしていく、オーソドックスなゲーム。だが、なかなかに戦闘システムが面白く、ここ最近はハマっていた。一般向けにしてはやや難易度が高い気もしたが、操作慣れしている俺にとっちゃ、どうってことはない。すぐにコツを覚えて、バッサバッサと敵を薙ぎ倒していくのは、なかなかの爽快感だった。シナリオは、まぁ、普通だった。この手のゲームによくある、世界を助けるだとか、幼馴染の女の子を守るだとか、そんな感じ。今も、液晶ディスプレイにはエンディングが流れていて、スタッフロールの背面で、主人公とヒロインが笑顔で手を繋いでいて、抱き合って、キスしている。かくして世界には平和が訪れ、主人公とヒロインは祝福され、幸福のうちに結ばれて、終了。ディスプレイは、早くもエンディングからタイトル画面に切り替わっていた。