第21章 『檻』
「じゃあな、縢。」
「うん、また来てよ、コウちゃん!」
コウちゃんと俺、お互い時間が空いていたので、ウチで一緒にゲームをして、適当に雑談して、適当にメシをつまんで過ごした。別に、これというほどに何があるワケでも無い。格闘ゲームで対戦をして、お互いに何となく思いついたことを口に出す、それだけ。それでも、俺としちゃ、コウちゃんと一緒に過ごすのは気分がいい。
部屋の片づけをしていると、悠里ちゃんから貰ったワインボトルが目に入った。もちろん、悠里ちゃんと一緒に飲むって約束したし、そうでなくてもしばらくは勿体無くて飲めそうにないから、こうして飾っている。部屋に入って、コウちゃんが開口一番に、「珍しい酒だな。一杯やるか?」なんて言ったときには流石に焦って、コウちゃんを軽く睨んでしまった。当然コウちゃんは、全部を見透かした上で口にして、俺の反応を楽しんでいたワケだけど。
その後、新作の格ゲーを一緒にプレイした時には、俺はいつもより僅かに熱くなって―――――もう少し正確に言うなら、俺は些かムキになっていた気がする。ゲームなんてモンは、熱くなっていったヤツから負けていく。クールに、冷静な判断――――――それが、特に土俵際での攻防を制するカギだ。あと一歩のツメの甘さは、大抵は不必要に熱くなるからこそ引き起こされるものだと、相場が決まっている。今日の俺は、自覚こそ無いが、どうやら不必要に熱くなり過ぎていたらしい。画面に映し出された、K.O.された俺の操作キャラを見ていると、コウちゃんがふいに声を掛けてきた。
「あんまり深みにハマると、抜け出せなくなるぜ、縢。」
そんなの、コウちゃんにだけは言われたくないセリフの筆頭じゃん、なんて思った俺は、思ったままを口にした。
「コウちゃんにだけは言われたくねぇし~。」
少しばかり、言い方が幼くなりすぎたか?でも、相手はコウちゃんだ。別に構わない。
コウちゃんは、「それもそうだな」と短く俺に返答して、それからは、またポツリポツリと雑談をしながら、ゲームを楽しんだ。