第19章 バースデー・サービス 前編
12月2日、勤務終了後、執行官宿舎、秀星くんの部屋の前。私は少し緊張しながら、呼び鈴を鳴らす。すぐに扉が開いた。
「待ってたよ、悠里ちゃん。いらっしゃい。」
いつも通りの秀星くんだったけど、心なしか声が弾んでいた。
「どうする?食ってからゆっくりする?すぐに準備できるけど。」
秀星くんの誕生日なのに、秀星くんが食事の準備をしてくれているのが申し訳ない気がする。片付けだってそう。秀星くんの部屋の何分の一かも分からないような狭い部屋だけど、それでも私の部屋に来てくれれば、片付けぐらいは私ができるけど、それは叶わない。だからせめて。
「うん、ありがとう。でも、その前に、ハイ、これ。」
30センチぐらいの縦長の箱を手渡す。
「何?くれんの?」
秀星くんは、嬉しそうな顔で箱を受け取ってくれた。すぐさまリボンを解き、包装紙を破いた。
「おぉ!酒じゃん!悠里ちゃん分かってるぅ!」
秀星くんの喜ぶものが、よく分からなかったけど、前にお酒を飲んでいたから、スパークリングワインにした。もう、取り扱っている店舗は見たことがなかったので、インターネットで通販した。とはいえ、どのサイトなら信頼できるかすら分からなかったので、唐之杜先生に相談したのだ。小さな瓶に、金箔がキラキラしていたのを見て、一目で気に入ってしまった。前に、秀星くんにワインをご馳走になった時に感じたことが、忘れられなかった。ワイングラスに注がれたワインは、室内の照明の光を集めるようにして映していて、とても綺麗だったこと。そのキラキラした様子は、プラネタリウムで見た星を思い起こさせた。だから、こんなふうに金箔が入ったお酒なら、もっと綺麗だろうな、と思った。ちょっとクサイことは自覚済みだけど、秀星くんの名前に因(ちな)んだプレゼント。とは言え、この話を秀星くんにしてはいないから、そう思っているのは私だけ。