第14章 『執行官』 Ⅰ
「でも、少しスッキリしました。それに、私、『シビュラ』に懐疑的になるだとか、壊したいだとか、そういうの、無いですから。一個人でどうこう出来る問題でもないですし。」
「随分とリアリストだな。」
「そんなことより、私、もうちょっと、秀星くんと一緒に、いてみたいな、って。」
私の気持ちは穏やかだった。一応、端末を取り出して、色相をチェックしてみる。ベビーピンク。所謂クリアカラー。さっさと端末の電源を切って、狡噛さんに向き直る。
「アンタも物好きだな。だが、辛いことも多いぞ、その選択は。」
「じゃあ、辛くなったら、また狡噛さんのところに来ます。」
「やめてくれ。俺が縢に睨まれるだろ。」
狡噛さんは、また優しいお兄さんのような目をしていた。その目線の先に、私はいない。きっと、ここにはいない秀星くんに向けられている。
「あはは、確かに、秀星くんは狡噛さんのこと、慕ってますもんね。男同士の関係に、私が入るのはやめておきます―――――あ。」
つい、もうすっかり慣れてしまった「秀星くん」で呼んでしまった。
「あ、えっと……、縢さんも、私に狡噛さんのことを……」
「別に、隠さなくていい。好きなんだろ、縢のこと。」
私の顔が、一気に熱くなる。
「あ、えっ……」
「どう見たって分かるだろ。ま、俺が口出しすることじゃないが、アイツは―――――縢はイイ奴だぜ。」
「狡噛さん―――――」
「そろそろ帰った方がいい。これ以上はさすがにマズイだろ。」
「はい、遅くまですみませんでした。」
私が立ち上がって、出口まで足を運ぼうとしたら、狡噛さんが腕のデバイスを操作し始めた。仕事なのかな。だったら、私、本当に邪魔してしまったかも……
「終わったぜ、縢。月島悠里、今俺の部屋を出る。」
「え!??狡噛さん―――――!!!?」
狡噛さんは、出入り口を開けて、私を送り出してくれた。荷物は、狡噛さんが渡してくれた。そして私が一歩外へ出た瞬間、狡噛さんの部屋の出入り口は、すぐに閉ざされた。
「あ……」
狡噛さんの部屋から出た私の前には、ほんの数時間前まで一緒にいた秀星くんが、ばつの悪そうな顔で立っていた。