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シャングリラ  【サイコパスR18】

第14章 『執行官』 Ⅰ


 執行官宿舎を抜ける。別に、今夜だって明日だって予定のない―――――秀星くんと過ごせればいいなと思って空けておいた時間は、空虚なものになってしまった。私は、どうしたらいいか分からないけど、このままただ単に帰ることもしたくなくて、何となく公安局内を歩いていた。勿論、公安局内を歩くのだから、コスデバイスで勤務時の服装には着替えたけど。そう言えば、この間搬入した代替機は、きちんと動作してるかな、そんなことを思うと、身体は勝手に公安局刑事課フロア内のトレーニングルームへと向かっていた。


――――――ドン、――――ズン!
 トレーニングルームに近づいただけで、鈍い音が聞こえてきた。誰かが使っているのかと思ったが、すぐに分かった。というか、こんな風に地響きがしそうなほど強烈なトレーニングをしている人なんて、そうそういないだろう。

「―――ッ!」

 トレーニングルームに入った私の目に飛び込んできたのは、この間搬入した訓練用ドローンに対して、連続で蹴り技を叩き込んでいる狡噛さんの姿だった。この人は、本当に人間だろうか。さらに、バランスを崩して転倒したドローンに覆いかぶさったかと思うと、今度は拳で追撃を加えていた。秀星くんは以前、『執行官』はドミネーターの引き金を絞ると言っていたけれど、『執行官』は、現場でこんなこともしているのだろうか。――――――『執行官』のことだって、秀星くんのことだって、私はまだまだ知らないことが多すぎる。


「ピー」
 訓練用ドローンから電子音が鳴って、狡噛さんはやっとドローンから体を離した。と、同時に、狡噛さんは迷いなく私を見た。その眼光は相変わらず鋭く研ぎ澄まされていた。私は、音も出していなかったはずだし、声もかけなかった。でも、狡噛さんの研ぎ澄まされた神経は、私の姿なんて見なくても、誰かがトレーニングルームにいるぐらいのことはすぐに察知したのだろうと思う。

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