第3章 瞳をあけたままで~斎藤一編~
二人が離れてから俺は時尾の前に立ち、その両手を握った。
「時尾………」
「一さん………」
目を閉じて時尾の額に自分の額をこつんと合わせる。
「必ず…迎えに行く。」
時尾も目を閉じて答えた。
「はい。お待ちしています。」
そして時尾にしか聞こえないような小さな声で俺は告げた。
「……愛している。」
「私もです。一さん。」
暫くそうしていると、時尾の背後から不知火の咳払いが聞こえた。
「あー………いい感じなとこ申し訳無いけど、そろそろいいかぁ?」
「す…すまぬ。」
俺が慌てて時尾から離れると、不知火は俺の顔を見てにやりと笑いながら言った。
「斎藤……だっけ?そんな顔するんじゃねえよ。
生きてさえいりゃまた会えるんだ。
こいつは俺がちゃんと守っといてやるから、
お前も死ぬんじゃねえぞ。」
思いがけない不知火の言葉に俺は心から頭を下げた。
「本当に感謝している。……時尾を頼む。」
「ああ…任せとけって。じゃあ、行くか?」
「はい。」
不知火に促されて少し歩き出した時尾は、ふと立ち止まると此方に振り返り「本当にお世話になりました」と丁寧に頭を下げた。
そしてまた俺達に背を向けて不知火と歩き出す。
段々と小さくなるその姿を見つめていた俺の背後で意味有り気に総司が呟いた。
「一さん……だってさ。」
「………………っ」
驚いて振り向くと、総司はからかうような笑みを浮かべていた。
「いや……総司。そこは突っ込んでやるなよ。」
総司の肩に腕を回してそう言った左之も、笑いを噛み殺すような顔をしている。
俺が羞恥に耐えられず顔を紅らめて目を泳がせると
「いやぁ……一君って意外と手が早いんだねえ?」
と、平助までもが感心したように言って笑った。
居ても立っても居られず「屯所に…戻るぞ」と歩き出した俺の後ろに、くつくつと笑いながら三人が続いた。
俺は立ち止まり三人を先に行かせてから時尾が去って行った方へ振り返る。
もうその姿は見えなかったが、俺は時尾に伝えるように呟いた。
「死ねない理由が出来てしまったな……。」