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薄桜鬼~いと小さき君の為に~

第2章 輝く意味~原田左之助編~


その日の夕刻、俺はまた縁側で一人酒を飲んでいた。

「あ……居た居た。左之さん、もう晩飯の時間だよ。」

平助が呆れた様子で俺の隣に腰掛けた。

「ああ…分かってるよ。」

俺が面倒臭そうに返事をしても、平助は俺の顔をじっと見つめたまま動かなかった。

「………何だよ?」

「あのさ……
 今日俺、巡察の途中に田島屋の前を通ったんだけどさ……
 其処の一人娘の祝言を挙げてたんだよね。」

今度は俺が平助の顔をじっと見つめた。

「そんでさ、店の中からその一人娘ってのが出て来たんだけど
 ……これがもう凄え綺麗な花嫁姿で…」

「平助……お前…」

平助は俺の言葉なんて聞こえていないかのように捲し立てる。

「婿になるって奴も優しそうな男前で、
 そりゃあもうお似合いっつーか……」

平助は再び俺の目をじっと見つめてから続けた。

「花嫁さん……凄え幸せそうに笑ってた。」

……俺は本当にいつも平助の優しさに救われてるな。

そう強く思った。

「平助……ありがとな。」

平助は照れたように顔を紅らめて

「なっ……何がだよっ。俺は世間話をしてるだけだぜ。」

と立ち上がった。

「とにかく、晩飯。
 早く来ないとおかず無くなっちまうからな。」


平助が去って行った後、俺は茜色の空を見上げて幸せそうに笑う操の顔を想像してみた。

想像しただけなのに何故か俺の顔も綻んでしまう。

以前、操の父親が言っていた事を思い出す。

俺達新選組のお陰で安穏に暮らせると……。

ならば俺は操の平和な生活の為に、幸せな人生の為に……

これ迄通り、信念を貫き通そうと思った。

それこそが俺の輝く意味だと思った。


今朝、お前が「さようなら」と微笑んだ時…

少しだけ…本当に少しだけこのままお前を拐って逃げちまおうかと考えたんだ。

一瞬、操の為なら何もかも捨てられると思った。

今思えば、そんな事出来る訳がねえのにな。

「さて……晩飯だ。」

俺は立ち上がりながら一人ごちる。

そしてもう一度空を見上げた。


「操……幸せにな。」





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