第2章 輝く意味~原田左之助編~
お互いに少し呼吸を整えてから、俺は慌てて言った。
「すまねえ。お前の身体に掛けるつもりじゃ無かったんだ。
だが間に合わなかった。」
懐紙を手に取ってそれを拭き取ろうとすると、操の指先がその白濁に触れる。
「お…おいっ……そんなもんに触るんじゃねえよ。」
「………ありがとうございます。」
「……は?」
「私に…気を遣ってくれたんですよね。」
操の指先が愛おしそうに俺の吐き出した物を捏ね回した。
全く……この女は察しが良すぎて敵わねえ。
そりゃ、明日他の男の嫁になる女の中に吐き出せる訳ねえだろうが。
懐紙で操の腹と指先を丁寧に拭いてやる。
「こっちこそ……ありがとな。
最後に良い思い出を作って貰った。」
「左之助さん……」
擦り寄って来た操を優しく抱き締めて横たわる。
お互いに無言のまま、身体中に手を這わせ…口付けを散らした。
どれくらいの時間、そうしていただろうか。
「もう……行かないと……」
そう言って操が俺の腕の中から逃れた。
気が付くと既に東の空が白んでいる。
立ち上がり身仕度を整える操を見つめて
「流石に…もう送ってやる訳にはいかねえな。」
と苦笑すると
「大丈夫です。多分、迎えの者が外で待っている筈ですから。」
操も悲しそうに笑った。
障子戸の前で名残惜しそうに立ち尽くす操の頭をそっと撫でる。
「元気でな。幸せになるんだぜ。」
「左之助さんも……お元気で。」
途端に操の瞳からぼろぼろと涙が溢れ出し、ひくひくとしゃくり上げ出した。
「怪我……しないようにっ…あまり無茶をっ…し…しないで…
……っ…それから……」
「分かった。分かったから。」
堪らず操を抱き寄せて額に口付けた。
「もう……行ってくれ。手離せなくなっちまいそうだ。」
「……はい。」
障子戸を開けて部屋を出た操は一度だけ振り返ると、まだ涙が乾ききっていない顔を微かに綻ばせて言った。
「さようなら……左之助さん。」