第1章 情けない狼~土方歳三編~
葛葉…………
いつだったか、総司がお前の事を凄いと言った事があったが……
お前は本当に凄いよ。
死んじまったってのに、俺の心を捕らえて放さねえ。
お前に逃げるなと言っておきながら、俺はずっと逃げ通しだ。
本当に情けねえな。
このままじゃお前に合わせる顔がねえ。
だから……お前と約束した通り、俺は最後まで戦い抜く。
納得出来るまで戦ったら、お前の所に行くからそれまで待ってろ。
お前が好きだと言ってくれたこの顔に、傷一つ付けずにそっちへ行ってやる。
なあに、そんなに先の話じゃないさ。
俺がそっちへ行ったら、また甘い菓子を食いながら茶でも飲もうな。
だから葛葉……楽しみに待ってろ。
「局長、隊士達の準備が整いました。何時でも出られます。」
背後から斎藤が声を掛けてきた。
「ああ…今、行く。」
俺は手に持っていた簪を上着の衣嚢に入れると、踵を返して真っ直ぐに歩き出した。
どんな時でもこの衣嚢に手を入れればお前に触れられる。
だから、言っただろう……葛葉。
「俺達は離れていても、ずっと一緒だ。」
了