第1章 情けない狼~土方歳三編~
それから俺達新選組は、敗走に敗走を続けた。
新八も原田も此処を去り、山崎も総司も亡くした。
そして何よりも守らなければいけなかった近藤さんすら失った俺は、今…会津に居る。
俺は…何の為にここまでやって来たんだろうな?
いくら考えても答えは出ねえ。
だからと言って投げ出す事も出来ない俺は、戦う意味さえ失いかけていた。
「局長……局長に会いたいと女が来ているのですが。」
「……女?」
斎藤に声を掛けられて、俺は直ぐに葛葉の顔を思い浮かべた。
逸る気持ちを抑えられず足早にその女が待っている場所に向かうと、其処に居たのは葛葉ではなかった。
「君菊じゃねえか。」
「お久し振りです。……土方さん。」
地味な着物を着てはいるが、君菊は相変わらず凛とした美しさを保っている。
「どうした?何でこんな所に居る?」
「やっと年季が明けましてね。郷里へ帰る途中なんです。」
「ああ…お前は仙台の出だったな。
だが、年季明けで郷里へ帰るって………
お前だったら身請けの話も一つや二つじゃなかっただろう?」
「こんな私でもね、
郷里でずっと待ってくれてる男が居るんですよ。」
そう言って君菊は少し恥ずかしそうに笑った。
「そうか……そりゃ、その男も果報者だな。
島原一の芸妓だったお前を独り占め出来るんだから。」
「それは買い被り過ぎです。」
少しの沈黙の後、俺が葛葉の事を切り出そうとすると、それを悟ったように君菊が口を開いた。
「土方さんに渡したい物があるんです……」
君菊が持っていた巾着袋から取り出されたそれが、しゃらんと懐かしい音を鳴らした。
「それ………どうして……?」
俺が葛葉に贈ったはずの紫陽花を象った簪。
俺の中で嫌な予感がじわりと頭をもたげる。