第6章 愛しすぎている~風間千景編~
「失礼致します。」
部屋に入り、腰窓の桟に身体を委ねているその男の姿を見て私の鼓動が跳ね上がった。
あいつに……似ている。
私がこれ迄の人生で唯一愛した男。
何とか動揺を隠してその男に近付き、その前に跪いた。
見上げてみると……やっぱり似ている。
髪や瞳の色は違うけれど、涼やかな目元も上品な高い鼻も、意志が強そうに結ばれた唇も……どうしてもあの男を思い出させる。
そして何故か目の前の男も私をじっと見つめていた。
相手を射竦めるようなその深紅の瞳には、僅かに悲哀の色が浮かんでいて
「お客様……?」
私はつい問い掛けてしまった。
唐突に名を問われて答えてみれば
「終いの結だな。……成程、今宵の俺には相応しい。」
人の名前を『終い』呼ばわりする始末。
まあ、確かに私の人生なんて終わってるようなものだけど……。
それに『今宵の俺には相応しい』って、どういう意味?
何か辛い事でもあったのだろうか?
でもそんな事、今の私にはどうでも良い事だ。
ここからは恐らく私の『辛い事』が始まるのだから。
どうせなら…と、その男の名前も聞いてみる。
「風間千景だ。」
品の有る人間は名前すらも上品なのだな…と下らない事を考えた。
さて、店主に言われた通り、何とかこの上品な男をその気にさせないと……。
「千景様……今宵はお酌をするだけと言われていますが……
でも、お会い出来て嬉しいです。」
取り敢えずそう言ってにっこりと笑ってみた。
……出来るだけ品良く見えるように。
これからどうすればこの男がその気になってくれるだろうか…?
取り敢えず酔わせてみるのが手っ取り早いかも…そんな事を考えながら酌を続けようとした途端、手首を掴まれ引き上げられる。
「気が変わった。」
「………え?」
もう?
私、まだ何も手管を繰り出して無いのだけど……。
「お前を抱く。
主人には先に充分な金を渡してある。
文句は言わせぬ。」