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薄桜鬼~いと小さき君の為に~

第5章 僕は風 君は空~沖田総司編~


そのまま僕は屯所には戻らず、有希ちゃんと暮らした庵に帰って来た。

「有希ちゃん……まだ戻って無いの?」

声に出してみても返事は無い。

三和土から部屋に上がった所で僕は激しく咳き込むと、胸の奥から鉄錆のような臭いが沸き上がって喀血してしまう。

ぼたぼたと畳の上に血が拡がって僕は慌てた。

「駄目だよ…。
 血を吐いたなんて有希ちゃんに知れたらまた心配掛けちゃう。」

僕は自分の着物の袖で、血で汚れた畳をごしごしと擦る。


拭き終わるとそのまま這うように窓際へ移動して、玄関が見える位置に腰を下ろし壁に凭れ掛かった。

有希ちゃんが帰って来たら直ぐ出迎える為に、僕はじっと玄関の引き戸を見つめていた。


どれくらいの時間そうしていただろうか……。

有希ちゃんはまだ帰って来てくれない。

「遅いなぁ……有希ちゃん。
 何処にも行かないって言ったのに……。」

その時、僅かに開いた窓の隙間からふわりと一片の花弁が僕の肩に舞い落ちて来た。


………桜?


そうだ…有希ちゃんと約束した。

二人で見ようねって……。

何処だっけ?

確か此処をもう少し登って………。

有希ちゃんは先に行ってるのかも?

一人で僕を待ってるのかも?

ああ…早く行ってあげなくちゃ。

有希ちゃんが可哀想だ。


僕は蹌けながら立ち上がり慌てて庵を出た。
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