第15章 紅葉
夢、だったのだろうか。
黄色や赤の楓がふわりと舞い降りる中。はしゃぐ私に大輝は「何やってんだよ」って顔で、笑ってる。口は悪いけど、その微笑みが優しくて。彼は私の落ち着ける場所。
「またこけんだろ」
そう言って、繋いでくれた大輝の温もり。繋いだ手から全身に伝わる大輝の熱を離したくなかった。ずっと繋いでいてくれませんか?
大輝と一緒にいるだけで、いつでも夢の中のように気分は舞い上がる。赤と黄色の樹々の葉はまるで寄り添うように、私を彩っていく。
ほら。空の色まで青をオレンジに変える。魔法にかけられた幸せな時間。
でも、そろそろ帰らなくちゃね。
大輝を離したくなかった。だからずっと、手を繋いでた。
彼の温もりが暖かくて、心地よくて、ウトウトする。
だめ、眠ったら、大輝との時間が、もったいない、よ…。
額に感じるのは柔らかな感触。大輝?
いつの間にか私、大輝の肩の上で眠っていた。どうしよう、起きようか。でももう少し、このままで居たい。
離れる唇。強く握られる左手。あ、大輝がため息をついた。
「あー、マジ襲いてぇ」
ぼそりと言わないでよ。本気みたいで、余計に照れる。
目を開く。握りしめていた右手の拳を開く。最後に掴んだ楓が、手の中に。
やっぱり大輝と一緒にいたあの赤と黄色の世界は、夢じゃなかった。
「やっと起きたか。重いっつーの」
そう言いながらも、やっぱり大輝の微笑みは優しい。
どうしてかな。
隣に居るはずのあなたが、儚い夢のように思えた。
秋の夕日と風がそうさせるのかな。
この楓の葉のように、ずっと私の、手の中にいて。
「大輝」
そっとその横顔に、キスをする。
「私、大輝の事…わっ」
唇を塞ぐ大きな手。大きなそれは私の鼻まで被さり、息が苦しい。顔を赤くしてもがく私を、大輝は楽しそうに笑ってる。
「バーカ。そうゆうのは、男が言うもんだろ」
大輝が何かを言いかけた時、ちょうどバスが来た。あーあって、立ち上がる大輝。
「こけんだろ?」
差し出された手を握る。
「ずっと、握っててやるよ」
乗り込んだバス、空いていた最後尾。
「なんなら、肩も一生貸してやるぜ」
そう言って右肩をくいっとあげる大輝。
「好きだぜ、ソラ」
誰にも見えないよう、モミジのように舞い降りた柔らかなキス。今度は、唇に。