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【SS合同企画作品】それは秋の幻だったのか

第14章 居待月


「女1人じゃ危ねーだろ」
文化祭の準備に夢中で、気づけば外は真っ暗。
彼氏から連絡が入っていた。でもそれに気づかない振りをした。青峰大輝が、送ってくれるというから。

心はとっくに青峰くんに向いているのに、そんなこと言えなくて彼と別れられないでいる。私は、弱虫でズルい。

青峰くんは私の話に興味がないのかあーとかうんとか、退屈そうな返事しかくれない。それでも良かった。彼が隣にいる、それだけで十分。
背の高い彼の横顔を覗き見ようとして空を見上げた。そうしたら、月が目に入る。真ん丸より少し欠けている。それでも綺麗なお月様。


「満月じゃねーのな」

「居待月。満月よりも月が昇るのが遅くて座って待ってるから居待月っていうんだよ」




彼は、気づくだろうか。



「ほんと、『月が綺麗ですね』」



気づくわけ、ないか。




あーあ。夏目漱石に言わせれば、ロマンチックな愛の告白なのに。
なんて言う資格、私にはないけれど。





私は月を見ながら歩き出そうとする。すると後ろから捕らえられ、大きな体にすっぽりと収まった。驚きに目が見開く。冷たい秋風が、余計に青峰くんの熱を感じさせる。

「オレは座って待ってるような性分じゃねーからな。欲しいモンは自分から取りに行く。月だろーがお前だろーが、な」

今、なんて言ったの?青峰くん、知らないのかな。私に彼氏がいるって。
私の背中と青峰くんの胸で心臓の音が一つになって、ドクンドクンと暴れている。ずっとずっと欲しかった青峰くんの体温に包まれて、涙が溢れそうになるのを堪える。震えが止まらない。

彼の力が緩まった。
嫌。
離れそうになる青峰くんに触れた。手を重ねた。
あなたの腕の中にいさせて。

「待ってていいの?青峰君が取りに来てくれるのを……?」
このまま攫って欲しいと思った。
「バーカ、お前だって黙って待ってるようなタマじゃねーだろ」
でもそれは違った。



欲しけりゃ自分から取りに来いよ



囁かれた耳が熱い。青峰くんの腕に力がこもる。
「うん」
そうだね。掴みに行こう。弱さとかあざとさは、全部捨てて。
重ねた手に力を込めた。
好きだよ、青峰くん。
側にいさせてくれますか。

「もう離してやらねーから覚悟しとけよ?」

青峰くんの指が私の目元を拭った。情けない姿を見せたくないから、後ろからこのまま、もう少しだけ。
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