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【SS合同企画作品】それは秋の幻だったのか

第13章 秋の海



病室を訪ねた。あれ?いない。花瓶の花を取り替える。今日の花は、アルストロメリア。
ナースさんに聞いたら、砂浜でリハビリ中だって。

差し入れのスポドリを買って砂浜へ行くと、鉄平が歩いていた。秋の風が吹いているというのに汗がすごい。首筋が太陽に煌めいている。相変わらずバスケのためにはいつも全力。
その真剣な顔が、ずっと好きだった。

「鉄平!」
「あれ?ソラ!」

鉄平は満面の笑顔で手を振る。この笑顔も、大好き。


休憩に入ると2人は砂浜に座り海を眺める。
「すぐ汗を拭く!上着を着る!」
体が冷えるからと鉄平の顔や頭をタオルでゴシゴシする。
「わっ、はは、自分でやるよ」
「でも風邪ひいたら大変だよ」
親がいなかったせいか、鉄平には昔から余計なお世話を焼いてしまう。

雲ひとつない澄んだ空。くっきりと見える地平線。人のいないビーチ。煌めく水面。まるで世界に私と鉄平の2人きり。
私は勝手にドキドキして、拳にぎゅっと力を込める。落ち着け。
鉄平を独り占め。秋の海も悪くない。

ただ、ちょっと、寒いかな。

「くしゅっ」
「ソラ、寒いのか?俺の上着着るか?」
「ううん、全然大丈夫!」

私は笑顔で応えるけど、きっと寒そうな唇をしてる。
リップクリームを取り出し唇に塗った。ごまかせてる、かな。


急にふわりと、頭に触れる温もり。鉄平の大きな手。
大好きなその手にどきっとする。

「鉄平!どうしたの?」

優しさに溢れる、その茶色の目が好きだ。

「温めてやろうと思って」

頭に置かれた鉄平の手に胸板まで導かれた。
大きな腕に包まれる、温もり。

「ちょっと、鉄平!」
「顔色良くなってきた」

私はドキドキしてもがくけど、鉄平の大きな体の前ではまるで子どもみたいに歯が立たない。
でも、それはただの言い訳。
ずっと包まれたかった、優しくてあったかい鉄平の熱。私はぎゅっと、鉄平の体を握る。

「ごめん、苦しいか?」
「違う!好きな人以外にそうゆうことしちゃだめ!」
「俺、ソラのこと好きだよ」

もう、この天然男は。

「離して、その好きじゃだめ」
「どの好きだ?好きって、1つしかないだろ?」

それってーー

揺れる瞳。誰もいないビーチに響く波の音。
2人の唇が自然と、重なりあう。



「ソラ、これからも側にいてくれよ」

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