第10章 【おまけ】戦国時代×黒子のバスケ
ソラは本丸に続く赤い橋の上で堀を眺めていた。鳥たちは優雅に泳ぎ、秋茜が宙を舞う。目の前では紅い葉たちがヒラヒラと舞い落ちる。秋が深まっている。雪は、いつ降るのだろうか。
雪が積もれば、戦の時も止まるのに。
「ソラさん、どうしたんですか?」
「わっ!テツ、ごくろうさま。珍しいわね」
「使いを頼まれまして」
小姓のテツヤは常に父上の側にいた。影も薄く決して目立つ容姿ではないけれど、いつも懸命に秋野に尽くしている。女の私にも、優しかった。父上のお気に入り。
「そうだ。ソラさん、これ良かったら」
テツが私に差し出したのは、深緋色の、小ぶりな丸い玉の耳飾り。漆塗りのようだ。
「先ほど贔屓の漆器屋に貰ったのですが、殿には内緒で差し上げます」
テツは私の耳に手を当て飾りをつける。どきりとする。
「似合ってますよ。色も紅葉のようで美しいです」
その玉は私が動く度にゆらりと揺れた。
それがとても、可愛くて気に入った。
「…すみません、使いも貰ったというのも、嘘です」
「嘘?」
「あなたにこれを、どうしても買いたかった」
胸が高鳴った。そんな消えそうな笑顔で見つめないでほしい。ますます気になってしまうから。
そんなことばかり考えて時が過ぎていく。
彼の真意に、気づかないまま。
部屋に帰っても耳につけたままの深緋の耳飾り。
玉が揺れる度、留め具と玉がわずかにぶつかる小さな小さな音がコツリと耳に響く。
それが心地よかった。
耳飾りが奏でる音が鼓膜に触れる度、テツの笑顔を思い出している。
夜。澄み渡る空。
虫たちは美しい鈴の音を鳴らし、恋の相手を誘っている。
そんな今夜はやたらと星が流れていく。
流星群だろうか。
こんな日は、何かが起こりそうな予感がする。
偶然にも見てしまった。父上暗殺の、瞬間を。父の隣に横たわるはテツらしき屍。両者を堕するは黒装束の男。
私に気づいた刺客は瞬く間に目の前に現れ、私の口を塞ぐ。
もがく私の瞳に映るその目は、どこかで見覚えが。
殺される、そう覚悟した刹那。
男は私の耳飾りをそっと揺らして、黒い布越しに私に口付けを。
彼の目は今にも消えてしまいそうに、悲しみを放ちながら微笑んでいる。