第6章 Another
「…寝ましたね。」
「…寝ちゃったね。」
俺の膝に頭を乗せて寝息を立てる彼女。
散々、翔さんのことで泣き喚いていましたし…泣き疲れたんでしょうね。
「それで?」
「…」
「本当のところ、小雨ちゃんのことは、どうなんですか?」
もうお酒を飲むのはやめにして、遠くを見つめながらビール缶に口をつける翔さんを見つめた。
「俺にも、よくわかんねぇ。」
「そっけないですね。」
「んぁー…好き、とかそう言うんじゃない気がすんだよな。」
翔さんは頭をぽりぽり掻いて、飲み干したビール缶を握りつぶした。
くしゃっと音が鳴って、ビール缶が凹む。
「じゃあ、俺がもらっていいですか?」
「ダメだ…っていうかニノ彼女いるじゃん?」
「んふふ。でも、ちゃんと最初にダメって言うじゃないですか。」
「あ…。」
翔さんは鈍感なんですね。
まさかとは思ってましたけど。
今のでよーく分かりました。
「まぁ、幼稚園からずっと一緒って言ってましたし、兄妹みたいな感覚が先に来ちゃうんでしょうね。」
「そうなんだよね。だから小雨と恋愛してるところは想像できない。」
「でも彼氏ができるのは見過ごせない、と。」
「うわ、俺…何様だよ…。」
翔さんはかなり落ち込んでしまった様子。
自分で握りつぶしたビール缶とおんなじように、凹んでいる。
この2人が上手くいくようになるには、ちょーっと時間が必要みたいですね。
「翔さんの心と頭がちぐはぐなのと同じで、小雨ちゃんもだいぶちぐはぐしてますし、そんなに落ち込むことないですよ。」
「は?」
「そのうち分かりますよ。」
翔さんはポカンと口を開けて首を傾げている。
そりゃ、今の翔さんには何のことだかサッパリ分からないでしょうね。
傍から見てればこの2人、上手くいってるように見えてますけど。
時が解決してくれそうな気がするので、俺は2人のことをしばらく傍観することに決めました。
俺は残りのビールを飲み干してゴミ袋に投げ入れた。
そしてそーっと小雨ちゃんの頭を膝から下すと、せっせと片づけを始める。
いつまでも外で寝かせていては風邪を引きますからね。
翔さんも空気を感じて、片づけを手伝い始める。
まださっきの俺の言葉を考えているのか、終始無言だった。