第1章 プリンセス・プリンス 【Type A】
今日は新曲のPV撮影。
都内のスタジオを借り切って、ほぼ1日、撮影に没頭する。
1日撮影とはいえ、待機の時間もそれなりに長い。
近くのカフェに入ったり、コンビニに寄ったり、はたまたスタジオでボーっとしてみたり…時間の潰し方はメンバーそれぞれ。
私は小腹が空いて、何かつまめるものを探しにコンビニに行くことにした。
嵐として活動し始めてから約半年。
元からビッグネームだった彼らと共に過ごしてきて、着実に自分の顔が売れていっていることはひしひしと感じている。
「念の為…ね。」
一般の人にバレないようにキャスケットを深く被り、だてめがねを掛ける。
財布をポケットに入れ、外へ出る扉を押し開けた。
「まぶし…。」
季節は夏本番。
今回のPVはみんなラフな私服風衣装での撮影だったため、そのまま衣装の半袖とハーフパンツのまま、外に出た。
スタジオの敷地から外に出るとすぐ、聞きなれた声が聞こえた。
「え~っと、ゴーストレート!アンド…ま、まが~る…?」
声の方を見ると、雅君が外国人相手に頭を捻らせていた。
外人さんは頭に「?」を浮かべた表情で、お互いに困っているようだった。
私はそこに近づいて、雅君に声を掛ける。
「雅君、どうしたの?」
「あ!小雨!あ、あのさ…英語、できる?」
「簡単な道案内くらいなら…たぶん、できるよ?」
雅君は「助かった!」というように私にすがりついた。
外人さんに行きたい場所を聞いて、英語で道案内をしてあげる。
こういった道案内はメイド喫茶で働いている時に何度か経験した。
メイド喫茶に観光で訪れる外人さんは、年に何度か現れるのだ。
「なんとかなったぁ~…!小雨、ほんっとありがとね!」
「いえいえ、困った時はお互い様だからね。」
雅君は小さくなっていく外人さんを見送りながら、私に手を合わせて感謝した。
そう難しい英語を使わなくても案内できるレベルだったので、私も一安心だった。
「これからどっか行くのー?」
「ん、ちょっとコンビニに。」
「そっか!気ぃつけてね!」
雅君はもうスタジオに戻るところだったらしく、「じゃあね」と手を振って歩き出した。
私も近くのコンビニへと向かって歩き出す。