第3章 現実のシンデレラ
コンサートがいよいよ間近に迫っている。
まだ距離感があるものの、メンバーとはほぼ敬語抜き、呼び名も自由に変えて喋れるようになっている。
ただ、ふとした瞬間にその年月の溝を感じることがある。
しかし、それも同じように徐々に埋まっていく…のだろうか。
今日はレッスンの前に会報の撮影がある。
コンサートの衣装合わせやメイクの相談を重ねていたので、担当の女性スタッフとはもう打ち解けている。
今回も会報用の衣装合わせとメイクのため、いつものメイク室へ入った。
「おはようございます!」
「小雨君、おはよう。」
「おっはよ~!」
メイク室では衣装を準備するスタイリストさんと、メイク道具を広げてスタンバイしているメイクさんがすでにニコニコの笑顔で待っていた。
私は荷物を置いて、鏡の前に座った。
「じゃあ早速メイクしちゃうね!」
「お願いします!」
「あ、ねぇねぇ、小雨君ってさ、普段はモデルとメイドの掛け持ちしてるんだって~?」
メイクさんが手早く下地を塗っている間に、後ろからスタイリストさんの声が聞こえてきた。
私は鏡越しにスタイリストさんの方を見ながら「そうなんですよ~。」とのんきな返事を返す。
「メイドさんってどんな感じ?何やってるの?」
「え…う~ん…『お帰りなさいませ~』ってお出迎えして…お話して…あ、あと季節ごとにイベントをやったりとかもします!」
私はメイクさんがたまに横から「目閉じて~」とか「上向いて~」とか言う指示に従いながら、スタイリストさんの質問に答えた。
「イベント!いいな~!今月は何やるの!」
「え…っと、確かチャイナイベントを…」
「わぉ!チャイナ!」
スタイリストさんは衣装の埃を落としながら楽しそうに笑った。
そしてメイク室の奥にあるもう一つのハンガーラックに手を掛けると、慣れた手つきで何か衣装を探している。
すると今度はメイクさんが質問を投げかけてきた。
「そういうイベントって、なんかこう…記念の写真?みたいなものもらえたりするの?」
「あ、はい。うちの店は生写真販売がありますね。」
メイクさんはアイシャドウを塗っていて、私はウインクしているみたいに片目を瞑ったり、瞬きをして両目の差を確認したりしている。