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セイレーンの歌【ONE PIECE】

第52章 ハート




視界に星が飛ぶ、なんて比喩表現があるけれど、モモの視界にはまさしく火花のような星が散っていた。

立て続けに放り込まれる絶頂の渦は息もできないほどの愉悦を与え、モモの心臓は荒れ狂う嵐の如く早鐘を打っていることだろう。

憶測でしかものを言えないのは、モモの胸に己の心臓がないから。
モモの心臓は今頃、目の前で情欲に燃える男の胸で暴れ狂っているはず。

「苦しいな。苦しいほど、胸がうるせェ。」

苦しい、うるさいと言うくせに、嬉しそうに唇を歪ませているのは誰だ。
責めるだけ責め、モモには愛撫のひとつもさせてくれないくせに、期待と喜びで胸を高鳴らせているのは誰だ。

心臓を交換し合った二人にはもはや、心を偽り隠すことすらできやしない。

「まだまだ、終わりじゃねェぞ?」

悪人面で笑ってみても、心を知ってしまえば迫力に欠ける。

辛いんでしょう、切ないんでしょう?
挿れたいんでしょう、動きたいんでしょう?

わたしのことが、大好きでしょう?

だから、鬼畜にも焦らすつもりなローの両頬に手を当てて、快楽に浮かされたまま微笑んだ。

「もう、きて……?」

一瞬、ローの瞳が迷うように揺れた。
けれども、迷いはすぐに不敵な笑みによって隠されて、いつもの凶悪そうな表情に戻る。

「まだだ。もっともっと、溺れるくらいに解してやるよ。」

本当に、根性も性格もひねくれた人。
出会った頃の方が、ずっと素直だった気がするなと思い出に浸る。

「ん……、いや。」

頬に当てた手を肩に滑らせ、背中をシーツから少しだけ浮かす。
自らの唇をローのそれに押し当てて、うっとりと囁いた。

「ローが、欲しいの。」

「……ッ!」

彼の頬に朱が走り、再び欲望に満ちた瞳が揺れる。

ローはよく、煽るのが上手いだとか言うけれど、なんてことはない。
ただ、彼の沸点が低いだけ。

ほら、その証拠にモモの胸で心臓が大きく跳ねた。



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