第51章 選んだ果てに
海賊の頂点を目指す者。
かつての海賊王、ゴールド・ロジャーが残した“ひとつなぎの大秘宝”を手にして、世界のすべてを知る。
その座を目指す者は、己のことを最たる強者だと信じる人間が多い。
しかし、ローは己が最強でないことを知っていた。
最強と過信していれば、最初から麦わらの一味と同盟を組んだりはしない。
自分より強い者。
例えば、ドフラミンゴ。
例えば、カイドウ。
そして例えば、サカズキ……。
(バカな……。)
その可能性は、ゼロではなかった。
しかし、限りなくゼロに等しい。
海軍元帥がどれほど多忙であるか、多少なりとも知っている。
モモのビブルカード作成は、片腕である副官に任せた仕事であるのに、それを自ら担おうとうのか。
だが、どれだけ自分の目と耳を疑おうにも、現実は変えられやしない。
今、ローの前にいる男。
海軍元帥 サカズキの存在を。
「セイレーンを捕らえるために、ビブルカードを早よぅ手に入れようと思うたが……。」
傷が走った頬が引きつり、僅かに口角が上がる。
「まさか、わざわざおどれらの方から現れるとは、わしの運も尽きとらんと見える。」
「ああ、同感だな。……俺も今、自分の悪運の強さに、嫌気が差したところだ。」
苦く笑ってみせるが、本当にそのとおり。
いつかは、この男と再び刃を合わせることもあるだろうと予感していた。
けれど、それは今ではない。
もっと力をつけて、大将にも四皇にも渡り合えるくらい、強くなったら。
そのはずだった。
「のう、トラファルガー。賢いおどれのことじゃけぇ、当然わかっちょるんじゃろうな。おどれがすべき行動を。」
本当は今すぐにでも攻撃に移りたいサカズキが、それをしない理由。
彼は探している。
モモという名のセイレーンを。
ふつり…と、胸の奥から煮えたぎる熱が生まれた。
「モモを引き渡せ。そう言いてェのか?」
「わかっちょるなら、早よ居場所を吐かんかい!」
生まれた熱が、炎となって燃え盛る。
目を瞑れば、あの日の屈辱が蘇る。
耳を澄ませば、あの日の言葉も蘇る。
『お前のところにおるセイレーンは、母体にしよるに決まっとるじゃろ。数が揃わにゃァ、兵器にならん。』
「誰が…渡すか……! モモには、指一本触れさせねェ!」