第44章 剣と秘薬
身体を抱え上げられ、いったいどこへ連れて行かれるのかと思ったが、すぐにお尻に硬く冷たい感触が当たる。
「あ…。」
露天風呂を囲む一角、つるりとした肌触りの岩の上に降ろされた。
少しだけ冷静を取り戻したモモは、自分の頬を撫でるローを見つめる。
最低限の灯りしかない浴場では、ほんのりとした光が彼の身体を照らし、獣のような体躯をさらに美しく見せていた。
(綺麗な人…。)
男の人に綺麗という言葉は嬉しいものではないかもしれないが、モモは本当にローを綺麗だと思う。
彼の身体も、心も、生き方も。
覚悟と信念の象徴であるタトゥーが、温泉の湿り気を帯びて月明かりのもと、神秘的に映る。
ふと、ローの右腕を一周する、大きな傷が目に留まる。
かつての彼にはなかった傷。
他の仲間から、ドフラミンゴとの死闘の末、負ってしまった傷だと聞いた。
一時、片腕を失ったのだと…。
「…まだ、痛む?」
そっと傷に触れると、ボコボコとした肌の起伏が当時の激闘を物語る。
「イヤ、もう痛まない。」
腕を1本失う痛みを、モモは想像できない。
ローが受けた痛みは、たぶんこれだけではなかっただろう。
モモにはわからない。
傍に、いなかったから。
(選んだのは、わたし。)
それを悔しいと思う権利なんてない。
ならば今、自分にはなにができるだろう。
背筋を伸ばして、傷口に唇を寄せる。
過去の痛みも傷も、自分に癒すことができればよかったのに。
「…だから、痛くねェって言ってんだろ。」
苦笑したローが優しくモモの頭に触れ、そのまま上を向かせる。
自然な動作で甘い口づけが降り、ささくれ立ったモモの心が溶かされていく。
過去は取り返せないけど、これからの未来では、絶対に彼を失うものかと誓った。