第5章 麦わら帽子とヒマワリとカメラ
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夏になり幾日かたったある日のこと。
まだまだ暑い夏が続くこの本丸で、男は珍しく早起きをしていた。
右手には小袋を、左手には農具を持ち、その足取りは軽やかだ。
ともすれば鼻歌さえ聞こえてきそうなほど、男は上機嫌であった。
じーじーと鳴く蝉の声を聞きながら、馬小屋にいる馬に声をかけていく。
いつもご苦労さん、と一頭ずつ声をかけ終えたところで、男の目的地であったまだ耕されていない畑にたどり着いた。
男の本丸には畑が五つあり、そのうち使っているのは二つだけである。
残りの三つはというと、誰も手をつけていないので荒れた土地のままだ。
男はその荒れた土地の二つを耕し、手に持った小袋に入った種を蒔くためにわざわざ早起きしたわけである。