第12章 終幕
男は鶴丸国永に追いつくと、内番の着物の裾を小さく掴んだ。
鶴丸国永が、振り返る。
「ん?どうした?」
尋ねる声は至って平然。
それが余計に、男の緊張を誘う。
顔に熱が集まるのが分かる。
緊張で、指先は僅かに震えていた。
「あ、のさ…」
「うん」
「今日の夜、部屋で、待ってる…から……」
何とか音にした言葉は、恥ずかしさで萎んでいった。
恥ずかしくて顔を上げられずにいるも、何故かなかなか鶴丸国永から反応が返ってこない。
もしかして、嫌だったのだろうか。
一瞬負の感情が過って、男はそろりと彼を伺うように顔を上げた。
すると、目に映ったのは、男に負けず劣らずかんぼせを赤くしたその綺麗な顔。
数秒の間を置いて、鶴丸国永はちゅっと男に触れるだけのキスを落とす。
唇が離れると、目の前の彼はたいそう愛おしそうに目を細めて、分かったと呟いた。
その、まるで蜂蜜の砂糖漬けのような甘い笑みに、男はふるると悶えて、それから逃げるように台所へ駆けて行った。
残された鶴丸国永は、一瞬きょとりと瞳を瞬かせた後、小さく笑いを零すのだった。