第12章 終幕
本丸に春が来た。
積もっていた雪は溶け、池に張っていた薄氷も今ではもうない。
葉の一枚もなかった木には桜が咲き、その景色は大層美しい。
時折風に吹かれては散る花びらが、この上なく風流だ。
穏やかな気候に、縁側で酒を嗜んでいた男は、意識がまどろむのを感じる。
今日は出陣も遠征も内番も取りやめて、本丸にいるみんなでお花見をしようということになった。
この本丸が誇る、一等立派な桜の木の下には、己の大切な刀剣たちが宴を楽しんでいる。
男も先ほどまではあそこにいたのだが、彼らほど酒が強くないため潰される前にと縁側に避難したのだった。
笑い声が響く。
澄み渡った空に、ぷかぷかと浮かぶ白い雲。
どことなく、アイスクリームに見えないこともない。
一際大きな笑い声が響いて、男はそちらに顔を向ける。
どうやら燭台切光忠がへし切長谷部の真似をしているらしかった。
一期一振と鯰尾藤四郎はそれはもう、遠目でも分かるほど大爆笑している。
こういうところ、ふたりは似てるよなあ。
被害者であるへし切長谷部は、宴会が始まって割と早くに潰された。
彼もまた、お酒に弱いのだ。