第9章 思い出を辿る
「……長谷部とは、どうだったんだ」
山姥切国広が聞く。
男はまだグラスを揺らすばかりで、なかなか口に含もうとはしない。
「…いろんな話をした。長谷部も俺も、もう大丈夫だよ。」
男はそう言ってから、ようやっとワインを口にした。
こくりと喉が上下に動く。
山姥切国広は、男の言葉を聞いてほっと息をついた。
もうこれで、彼が刀解されたいなどと言うことはないだろう。
本丸に帰ってきたへし切長谷部の赤く腫れた目元を思い出しながら、山姥切国広はふっと頬を緩める。
それから男が現代へ行っていた間の様子を、簡単に説明した。
短刀たちが羨ましがってたこと。
加州清光や和泉守兼定が拗ねていたこと。
それを慰める、堀川国広のこと。
男はそれらを楽しそうに聞く。
遠征先で三日月宗近が迷子になった。
直ぐには見つかったが、あれは遠征の任務より骨が折れた。
山姥切国広がそう言えば、男は声を立てて笑う。
特に変わったこともなければ、何か事件があったわけでもない。
それを確認すると、男は襲う眠気を隠そうともせず欠伸をこぼした。
「そろそろ寝るか。国広は?」
男が伸びをしながら聞く。
山姥切国広は、今度は新しいグラスに赤ワインを注いでそれを口にした。
ふわりと鼻を抜ける葡萄の香りを感じながら、緩やかに首を振る。
「俺はもう少し飲んでいる」
「そうか。なら、火を消しといてくれ。炭は明日俺がするから。」
そう言うと、男は眠る挨拶だけしてその部屋を出て行った。
残された山姥切国広は、まだグラスに広がる赤紫を嗜む。
それが胃に流れるのと同時に胸に満足感が広がるのを感じて、山姥切国広はまた頬を緩めるのだった。