第9章 思い出を辿る
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男の体調がすっかりよくなり、本丸には冬が来た。
短刀や一緒に遊んでいる(というか遊ばれている)和泉守兼定の声を聞きながら、男は外用に着ていく着物を身に纏い廊下を歩いていた。
目指す場所はへし切長谷部の自室。
男は今日、へし切長谷部を連れて現世へ行こうと考えていた。
審神者業には、幾つかの規則がある。
それは己の真名を明かしてはいけないというものだったり、自分のことを知る現代の人間と関わってはいけないということだったり、とにかく色々あるのだが、審神者というものはそれ以外は割と何をしても許される。
例えば恋愛。
審神者同士でも、刀剣男士とも、中には刀剣男士同士での恋愛も、何でもありだ(ただし現代にいる者とは別である。しようと思えばできるが、色んな誓約があり最終的には審神者として過ごしていた記憶が消されるとか何とか)。
例えば本丸での過ごし方。
政府から与えられる任務はあるが、それも強制ではない。
あまりにもしなければ催促が来るが、それだけでサラリーマンに比べれば大分楽だろう。
そして任務以外は好きなようにして過ごせる。