第2章 演練
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演練の会場に着くと、そこには既に何人かの審神者と刀剣男士がいた。
今回演練が初めての一期一振なんかは、辺りが珍しいのかきょろきょろと落ち着かない様子だ。
そんな一期一振の様子に、男は小さく笑みをこぼした。
普段落ち着いていて何でも卒なくこなす彼が、この時ばかりは幼子のようで可愛らしく思えたのだ。
そんな一期一振をからかう鶴丸国永の姿を見るまでは、だが。
つきんと痛む胸に、男はそれを振り払うようにして首を振る。
どちらも男にとっては大切で何ものにも代え難いものであるのに、一期一振を妬むなど言語道断。
お門違いにも程がある。
鶴丸国永とは、昨日のあれからまだちゃんとした会話を交わしていない。
会話を交わす暇がなかったと言うのもあるが、心の奥底で男が話したくないと思っているのもあるのだろう。
男は幾つになっても失恋というものに慣れなかった。
恋をするにあたって、ずっとずっと、そこだけは大人になれず子どものままだった。
「主、審神者が全員揃ったそうだ。あと半刻で始めるらしい。」
どうやら演練の予定の紙を取りに行っていたらしい山姥切が、男の肩に手をおいて演練の流れを告げる。
それに男は、はっとして笑みを浮かべて礼を述べた。
「あんた…、」
不意に山姥切が何かを渋るようにして口を開く。
しかし何と言えばいいのか分からなかったのか、幾度か口を開閉するだけにとどまった。
男が不思議に思い疑問を投げかけるも、何でもないと言われればそれ以上追求するのも気が引けてしまった。