第15章 王手
「殿」
後ろから呼ばれる声に、は振り返った。
『はい?…あら、サーム様。いかがされましたか?』
「お主に、頼みたい事があるのだが…時間は大丈夫だろうか」
『えぇ。今しがた、ナルサス様の御用を済ませました。後は、何をしようか考えていたところでしたの』
「それは丁度良かった。実は…」
ーーー
サームに連れられ、中庭まで来るとカーラーンが座っているのが見えた。
話を聞くと、二人はシャトランジ(チェス)の盤上遊びに付き合ってほしいとの事だった。
「やり方は、知っているか?」
『えぇ。知ってはおりますが、私で相手になるでしょうか?』
「そんなに気負いせんでも大丈夫だ。ただの遊び」
「そうです。流石に二人だけでは、飽きてしまいましてな」
それならば…と、はカーラーンの向かいに座った。
『では、失礼いたします』
そう言って、対局が始まった。
「急に呼び止めてしまって、申し訳なかった」
『いいえ。私も、久しぶりに打ってみたかったので嬉しゅうございます』
ニコッと笑い、また一手進めた。
「久しぶり、ということは…」
『いつもは、ナルサス様と』
「なるほど、だから先ほどから隙がないと思った」
「…サーム」
その言葉に盤上に目を向けると、
『シャーマート(王手)にございます』
「なっ…」
「…ま、待った」
『かしこまりました。では、待ちます』
二人は、じーっと盤上を見つめている。時に、違う、ダメだと独り言を呟いていた。
「ぐっ…か、完敗だ」
『あ、あの…も、申し訳ございません!今のはなかった事に…』
「次は、私と一局願う」
と、カーラーンの席にサームが座った。
だが、まぁ予想はつくだろう。
「待ってくれ」
(殿、ナルサス殿との戦歴は?)(私の連戦連敗ですわ)(……。)(軍師と我々の頭の作りの違いを思い知らされるな)
アトガキ
急にチェスがやりたくなっただけのネタです。スミマセン。