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光城の月

第3章 濡れ衣大明神







前と変わらない鼻水の垂れっぷりに、思わず頬が緩んでしまう。
あの家にいても、聞こえてくるのは子どもたちの元気な声だけで、いつも寂しい思いをしていたものだ。
…前は近所の子どもの声なんて、煩わしいと思っていたのに。

───不思議だよ、本当に。
そうして、丁度聖くんに持たされていた手ぬぐいで少年の鼻水を拭きとってやると、隣にいたたっちゃんも私と同じようにかがんで少年の頭を撫でる。



「よぉ似合っとるにゃあ、この坊主」

「えへー」


刈り上げられた頭を褒められた少年は嬉しそうに笑う。

現代の子はませてるから、こんな坊主にしたがる子は少ないんだろうけど、この子にとっては一番のヘアスタイルなんだろうな。
「わしも昔はおまんとお揃いやったきに」そう言いながらたっちゃんが少年と笑いあっていると、男所帯の中でひときわ目立つ甲高い声が聞こえて来た。

その声を聞いて、すぐに誰かわかった私は咄嗟に声のする方へ視線を移した。



「みつさん!」

「来てくれたのね!嬉しい!」


男性たちを押しのけながら、走って来たみつさんは私にめがけて猛突進して来た。
そしてガバッと私を抱きしめる。

その光景に、周りの人たちはギョッとしていたけれど彼女はそんなことお構いなしに嬉しそうに足をばたばたさせる。
(…ああ、本当に私も嬉しいな)
普段友だちと会ってもこんなことしないけど、この約束は私と阿古さんの決意でもあったし、これくらい歓迎されてもいいよね───



「おうおう威勢のええ女子やのう」

「あら、どなた?」


周りの人たちと違い同じくらいスキンシップが凄いたっちゃんが、いつの間にか鼻水少年を肩車しながら笑うと、みつさんは私に耳打ちをする。
「まさか…!」「違うよ」なんて女の子らしい会話をしつつたっちゃんを紹介すると、彼女は肩を弾ませた。

「土佐の藩士らしいよ」と言えば、本物のお侍さんと話したのなんて初めてと言う。
この時代って、なんだか本当に不思議だな。
同じ日本とは思えないや。



「あと四半刻で始まるわよ、行きましょう!」

「うん!」


返事をしながらも、四半刻って何時間だっけ…と首を捻る。この時代の時間とかお金の単位とか水の測り方とか、まだよくわからないんだよなぁ…
こんな常識を聞いたらそれこそ病院に連れて行かれちゃう。







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