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光城の月

第3章 濡れ衣大明神








────────”歴史の分岐点”


トオリさんが言っていたあの言葉が、ずっと頭から離れなかった。

そんなもの私にわかるはずもない。
というかそんなもの、誰も正解を決められないんじゃないだろうか。
どれだけ歴史に詳しい専門家が答えたって…



「ぐえぁ」

「もう少しですお嬢様!」



朝、
女中さんに着物の帯をきつく締められながら、私は苦しみに悶える。

最初この家に来た時は、なかなか着る機会のなかった着物や小袖を見て回ったものだが、今はもう普通の服が着たい気持ちでいっぱいだった。
着物は本当に暑いし、小袖はまだ着物に比べて軽いけどやっぱり帯は締めないといけないし、トイレはしにくいし…

ってそう!トイレだ、一番最悪なのは。
これもう拷問だろって感じの形状で、なんかせっちん?とも言うらしいんだけど、和式トイレの劣化版。
当たり前だけど、下に自動で水は流れてくれないし、臭いし、暑いし、しみが凄いし、時代が進歩してくれて良かった…と痛感したよ。

そうだ、あの歴史の分岐点ってやつ。
それはトイレが自動で流れるように考えた人が生まれた時じゃないかな。



「阿古さん」

「は、はい」

「…少しお話が」


呑気にそんなことを考えていると、襖越しにお義母さんの抑揚のない声が聞こえてきて、私の鼓動は早くなる。
私の寝巻をたたんでいた女中さんは、お義母さんの言葉を聞くや否やそそくさと頭を下げて隣の部屋へと戻っていった。

怖い…もしかしなくても昨日のことについてだろうけど、昨日は疲れてそのまま寝ちゃったからな…
でもあれはどうしようもなかったというか…不可抗力というか…言い訳にしかならないか。



「失礼します」


─────スっ、と襖が開き、気品を感じる無駄のない動作でお義母さんが顔を出した。
「お義母さん」そう呼ぶのに少し躊躇いを感じるくらい、彼女は綺麗で若々しい。

もう叱られるのには慣れたけど、この緊迫した空気だけはどうにも苦手だな…
この人の自然と放つ「圧」がそうさせているのだろう。




「…昨日はお疲れのようでしたが、どちらへ」



(うっ……)
やっぱりそうくるよね、覚悟はできていたけどいざこうなると威圧感で息ができなくなってしまう。

私は大きく息を取り込み、お義母さんを見据えた。



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