• テキストサイズ

光城の月

第3章 濡れ衣大明神








「く、黒船はもう来ましたか!?」



ハッとした私はそのままの言葉を口に出した。
黒船が来ているなら、それは絶対に江戸時代だと、小学校の歴史の知識しか持ち合わせていない頭をフル稼働させる。

───いや、今思えばもう少し頭のいい質問をできたかもしれない。今の将軍は誰ですか、とか。
というか普通に、今は何時代ですか?と聞けば良かったのだけど。

そのくらい私の中では、江戸時代に現代でもお目にかかれないまるでデ●ズニーランドのセットのような大きな船がやって来たというのが小学生の時から衝撃だったのだ。
教科書に載っていたあの、大きな黒い船と着物を着て刀を腰に差した武士の小ささが対照的で…



「……うん、結構前に」

「!…じゃあ江戸時代か」


腑に落ちたように私がそう言えば、トオリさんは少ししてから枷が外れたように腹を抱えて笑い出した。
何がおかしいんだという目を向ければ、彼はますます笑いに拍車をかけ目にうっすらと涙を浮かべる。

(笑い過ぎだろ…!!これでも誰にも聞けずにずっとくすぶってたんだから…突然時代なんて聞かれても怪しまれるだけだし…阿古さんが年号を教えてくれたけど全くわからなかったし…)



「オレさっき『江戸へようこそ』って言ったよね?」

「………あ」

「ヒーっおかしっ」



「江戸」は「江戸」か…。
さっきの自分の行動に赤面しながらも、あんな気が動転してた時のことなんて覚えてるわけないだろ!とトオリさんを睨む。
こなくそ~どんだけ笑ってんだこの野郎!

笑い過ぎて半ば過呼吸になっていた彼は、いきなり何かを思い出したように「あ」と言うと、また私への距離を詰めてきた。



「よし、じゃあ体見せて」

「何がよし?」






無理やり着物を剝ぎ取られそうになったのだが、間一髪のところで夕餉の時間を知らせに来た女中さんに助けられ、なんとか貞操を守ることができた。

また一週間後に来るとだけ言ってトオリさんは帰っていったが、その見送りをお義母さんがしていたので、やっぱり本当に阿古さんの主治医だったのか…と頭を痛めた。
あんな意味のわからない医者を雇うなんておかしいんじゃないのか…


くたくたになった私を見た聖くんは何度も心配の言葉をかけてくれたけど、勝手に家を出て行ったことはバレていなかった。


/ 36ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp