第11章 コスプレするなら心まで飾れ 〜良からぬ噂〜
少し後悔をしながら、女はマスターを見つめる。
「そうですね……」
マスターは顔を近付けた。
「テロについての噂は聞いてませんが……面白い噂なら、1つだけございますよ」
「!」
昏葉は目を見開いた。
「……それは……何?」
マスターは表情を変えず、ニコニコと笑っている。
「……お客様はお美しい方なので、特別にお教え致しましょう」
マスターは女の耳元に顔を近付けて、口を開いた。
「この辺で最近、新種の薬が出回ってるらしいんですよ。たまに吸ってそうなお客様が来られるんですけどね。相当ヤバいやつっぽいので、お客様もお気をつけください」
隣の客には聞こえないような小さな声で言う。
話終わると、マスターは顔を離してウインクをした。
「私の知ってることはこれくらいです。お役に立たず、申し訳ございませんでした」
「……いえ……」
女は微笑んだ。
「とても役に立ったわ。ありがとう」
昏葉はカウンターにカクテルの代金と情報代を置いた。
「ご馳走様。また来るわ」
そのまま席を立って、店を出て行った。
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