第2章 ヤンチャな男の子/氷室&虹村
「あの、」
高校3年、夏。
学校近くの寮を出てしばらく歩いたところにあるコンビニ。
飲み物を買って外に出ると、ムワッとする空気が引いた汗を復活させる。
その空気に目を細めて足を進めると、ふと声を掛けられた。
かなり低い声で、一瞬ドキッとした。
が、どこか聞いたことのあるような落ち着くその声に、私は振り向いた。
「この、『陽泉高校』…ってとこに行きたいんすけど…」
女子の中では特に小さくも大きくもない私が見上げるほど、その人は大きかった。
その顔を見れば、やっぱり見覚えのある顔だ。
「あの?………えっ、」
「に、虹村…?」
「か?!」
その人は虹村修造。
同じ帝光中に通い、3年間同じクラスだった。
どっからどう見ても体育会系だが、女子とも誰とでも積極的に仲良く話す虹村。
そんな彼と私が仲良くなるのはすぐだった。
中2・中3のクラス替えの時には、また同じクラスかよーなんて嫌味を言いつつもとても楽しく学校生活を送っていた。
「帰って来てたの…」
「あ、ああ、一旦な。親父の体調が大分よくなったから2週間の里帰りだ」
「そうだったんだ」
3年間一緒にいて、お父さんの話も部活の話も私は聞いてきた。
部外者だったからこそ、彼の心の拠り所になれたんだろう。
そしてそれは私にとっても同じだった。
だけど中学を卒業してすぐ、彼の渡米を見送って以来私達は連絡をとっていなかった。
いつも学校で会って話すだけで良かったから、連絡先なんてただの一つも知らなかったのだ。
だから今こうして会うととても緊張する。
「えっと…それで、なんで陽泉?」
「あ、ああ!そうだ。そこに知り合いがいるんだけどよ」
「ふーん。私もそこの生徒だから良かったら案内するよ」
「マジか助かる!」
でもなんでだろう。
こうして話してみると不思議と落ち着いてくる。
「てか背伸びた?」
「え?あーそうだな。まあ男は高校生が一番の伸び時期だからな」
「そうなんだ。んー、187cmくらいある?」
「さー。測ってねえからわかんねー」
まるであの頃に戻ったようだ。
「お前は、その…綺麗になったな」
「ええっ?!」
…いや、気のせいか。
戻るどころか、別人じゃないのか?
だって虹村はこんなこと言う人間じゃ…
「ちゃん?」