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短編集《 黒子のバスケ 》

第3章 tear and smile/黒子テツヤ




ボクは今この瞬間は現実なのか夢なのかと、頬をつねった。
痛かった。夢じゃない。彼女の記憶が、戻ったのだ。



「さん…!」
「テツヤ君、ごめんね、いっぱい、傷つけたよね」
「そんなことないです!君の、君の方が…」



ボクは彼女を強く抱きしめた。
壊れないように、もう、離れないように…。



「記憶が無くなったあの日、私階段から落ちたでしょう?」
「…はい」



そう、彼女は階段から落ちた。
と言っても事故ではなく、誰かに背中を押されて、だった。
その時ボクはそばにいなくて、その事実を知ったのは彼女が保健室に運ばれた後だった。
背中を押した人物はその瞬間を見ていた生徒に捕まって、一先ず自宅謹慎になった。



「その女の子の彼氏だった人が私のこと好きになったみたいで、逆恨み…ってやつなのかな。それで…」
「なんですか…それ…」
「でも、私にはテツヤ君がいたから怖くなかった。それなのに、そのテツヤ君の存在自体を忘れちゃうなんて…」



逆恨みで、彼女の記憶を奪ったあの生徒は、今どんな気持ちでどう過ごしているんだろう。
もう十分反省はしてくれただろうか。



「ねぇ、テツヤ君。私が記憶なくした時、どうして友達だなんて言ったの?」
「そ、れは…。恋人だと言えば、君はもっと辛くなるだろうと思って…」
「…やっぱり、テツヤ君は誰よりも優しいんだね」
「そんなこと…」



ねぇ、さん。

君はもしもボクが記憶を無くしてしまっても、そばにいてくれますか。
もしもボクが泣いていても、笑っていてくれますか。
もしもボクが取り乱したりしても、隣で手を握ってくれますか。

もしもボクが、



「さん、ボクが優しいのは君だからです。ボクは、君がいないとダメなんです。だから、だからボクと、一緒に幸せになってくれますか」



もしもボクが一緒になろうと言えば、君はいつもの素敵な笑顔で笑ってくれますか。



「…もちろんです」



明るい空の下、彼女は笑った。






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