第3章 06:03 ”花巻貴大”は梅雨をなめている。【全年齢】
チャリの車輪が雨上がりのアスファルトに出来た水溜りを走り抜けて飛沫が上がる。
雲の隙間からさす僅かな日差しがどんよりとした空に若干の清々しさを演出するような、そんな朝。
坂道を一気に下って、すぐの角を風を切って左に曲がり、白い壁に洒落たフェンスに囲まれた家の前で止まって、俺は外のチャイムのボタンを押した。
インターフォンのカメラに向かってピースしてキザに笑顔を作ると、玄関のドアがガチャリと開いて、今日も相変わらず不機嫌そうな彼女が顔を出す。
『ちょっと、恥ずかしいからやめて。』
「及川のマネ。」
『げっ。』
ぶふっ
嫌がりすぎだよね、それ。
俺の彼女、は不愉快そうな顔をして俺を睨む。
「おはよー。相変わらずだね、低血圧。」
『タカ、朝からテンション高すぎ。』
「が低いだけだから。ほら、いくよ。」
スクールバッグをリュックみたいに背負って、俺のチャリの後ろに渋々座る彼女を乗せて再び漕ぎ出す。
は2年で俺の一個下の彼女だ。
髪色明るいし、どっちかと言えば派手な子だけど、性格は結構クールで毒舌で、俺はまるで先輩として扱われていないのが現状。
でも極度の恥ずかしがり屋だから、こうしてニケツすんのも最初はやがって、なかなか乗ってくれないという意外な一面もあって。俺は彼女のそんな性格を結構気に入ってる。