第8章 21:06 ”黒尾鉄朗”は拾われる。【R18】
::::::: 夢主さまside :::::::
『あの、、、傘、入ります?』
ある日の夜、
私は黒猫を拾った。
就活がうまくいかなくて溜まったイライラのはけ口に、コンビニでチューハイを買った。
店を出て、プルタブに指を引っ掛けて空けて、一口飲む。
雨は夜空に無数の白い線を描いて、地面に打ち付けて落ちる。店先の傘立てから自分の傘を探そうと視線を動かすと、傘立ての向こうにトサカみたいな黒髪の男が座り込んでいるのが見えた。
『あの、傘ないんですか?』
「まぁ、そんなところです。」
『家、近くだったら、一緒に入っていきます?』
「店先で缶チューハイを飲んでるお姉さんについてって大丈夫なのか、若干不安なんですが。」
何このクソガキ。
よく見れば高校生だし。
背を丸めて座り込んでた彼が、すっと立ち上がると私が簡単に見下ろされてしまう程背が高くて、怖気付く。
「んじゃ、おじゃまします。」
そう言って私の手から奪い取って、逆に差し出される傘。
いや、それ私の傘、、、、
まぁいいか。
それが、
私と黒尾鉄朗との出会い。
田舎からわざわざ両親の反対を押し切って東京の大学に進学した私は、順風満帆な大学生活を送っていた。サークルに入って連日仲間と飲んで、バイトをして貰ったお給料でギリギリな生活をする毎日も、そう悪くはなかった。
だけど、就職活動が始まって私の東京で過ごした時間の薄っぺらさを痛感した。
大学生活で得たものはなんですか?
『大切な仲間です。』
その得たものを就職後どの様に活かしたいですか?
『、、、、、、、。』
高尚な何かがなくてももちろん社会人にはなれると思う。だって、世の中何にも持ってない人なんて腐る程いる。そう思ってた。
でも、私にはそんな平々凡々な自分で戦い抜くほどの自信も自尊心もなく、それの材料となるような蓄積も何もなかった。
そもそも東京に出てきた事自体、私にとっては薄っぺらい理由でしかない。友達と遊んで、飲んで、バイトするのなんて地元でだって十分できた事だった。