第2章 00:00 ”澤村大地”は完璧ではない。【全年齢】
『大地、、、どうしたの?眠れない?』
「ごめん、起こしちゃったか?」
テレビの小さな音が上の空に聞こえたような気がして、重い瞼を開けると、大地はインハイ予選青城戦の録画DVDを見ていた。
フルセットの試合をして見せたが、結果として敗北を記したあの日から数日後の今日、大地は私の家に来て珍しく帰らないと言った。
幼稚園からの幼馴染の大地の事は、誰よりも近くにいたからよくわかっているつもり。
『私は大丈夫だよ。』
そう言い残して部屋を出て静かにドアを閉め、キッチンに行って冷蔵庫から牛乳を出し色違いの二つのマグカップに注ぎ、電子レンジに入れてスタートボタンを押す。
夕方から降り出した雨は、まだ降っているようで、庭のバケツに雨粒がぶつかる音がするのに私はぼんやりと耳を傾けた。
電子レンジの前にしゃがみ込んで膝を抱え、大地の事を思う。
中学のバレー部の時から大地は人一倍バレーと向き合ってきて、仲間を思いやってきた。仲間からの厚い信頼。キャプテンとしての器の大きさ。全てが彼の魅力だけど、その全てが彼の重圧となってのしかかる。
チンッ
レンジから温かくなったマグカップを取り出し、そこに蜂蜜を垂らしてスプーンでかき混ぜる。すると、溶け出した甘い香りがふんわりと広がって鼻をくすぐり、少し温かい気持ちになった。
『大地、ホットミルク。』
「悪いな、。ん?、いい匂いするな。何か入ってるの?」
『蜂蜜。あったまると、心が落ち着くよ。』
大地にマグカップを渡して、彼の隣に座る。
マグカップに口をつけながらも画面に夢中な大地の顔をテレビの明かりが照らしていて、その姿に胸がぎゅーと苦しくなった。