第21章 -花束-(岩泉一)
家に着いた瞬間、
オレはすみれを抱き締めた。
「ハジメ…?…酔ってる⁇」
「酔ってねーよ。」
「もう…じゃ、どうしたの?
今日はハジメも疲れるだろうし、
実家帰るって言ってたでしょ?」
すみれが怒っているわけではないのが、
声色でわかった。
心底不思議がっている…
ただそれだけだった。
鈍感にも程が有る。
「花巻たちに感化されたかな…」
「え…?」
「おまえを抱き締めたかったんだよ。」
おまえを…澤村と帰らせたくなかった…
そのことばは飲み込んだ。
「え…⁇あ…や、やっぱり酔ってる⁇」
すみれは耳まで赤くして、
急にソワソワする。
「あ!ブーケ‼︎お水につけないと!
何か花瓶になるものあるかなー?」
すみれはスッとオレからはなれ、
さっき自分が取ったブーケを取り出した。
すみれのブーケは、
可愛らしいピンク色のブーケだった。
その姿を見て、オレも、
自分が取ったブーケを取り出す。
「あ、ハジメのブーケも生けとこうね。
こっちも可愛いね。」
クルリと振り返ったすみれは、
ピンクのブーケを持って微笑んでいた。
オレが取ったブーケは、
白と水色の上品なブーケだった。
「なぁ…すみれ?」
「なぁに?」
「ん…」
オレはすみれに、
オレのブーケを押しやった。
「ん?一緒に生けとくね。」
すみれがブーケに手を伸ばす。
「予行演習っつぅか…
予約…していいか?」
「え…?」
「オレと…結婚してくれ。」
「ハジメ…‼︎‼︎‼︎」
すみれは目に涙を浮かべて、
笑顔でブーケを受け取ってくれた。
「はい。喜んで…。」
「今日は予行演習だから…
花束はこのブーケでガマンしろな?」
「ハジメからのブーケ…幸せだよ。」
すみれはギューッと
オレに抱きついてきた。
「ハジメは…
グレーのタキシードが似合うと思うな。」
オレに抱きついたまますみれが言う。
「あぁ。おまえに任せるよ。」
正式なプロポーズでは、
すみれに何色の花束を送ろうか?
すみれを抱き締めながら、
オレは想いを巡らせていた。
---End---