第7章 (ロー、シャチ、ペンギン、キス)
夜も深まりあともう数時間で日が昇り始めるだろう時刻、小さな声がする。
「しあちー。おきて」
大部屋のハンモックで寝ていたりん。一緒のハンモックにいるシャチを揺り動かすが一向に起きない。
「おーきーて。しあち。とーいーえ」
潜水艦内は明るいが、深夜皆が寝静まると機械音が大きく聞こえ怖く感じるらしい。
「うー、しあちー」
もどかしさが口調に出てくる。
「…りん?どうした」
隣のハンモックからペンギンの声がした。
「ぺんー、といえ。しあち、おきない」
「ぺん…ソレ定着したの?」
妙な略され方をした呼び方に苦笑する。ペンギンがハンモックから起き上がり、帽子を被ってからりんに近づいた。
「ほら、おいで。一緒にいこうな」
「んー!」
育った環境のせいか、見た目も発達しなかったが
精神年齢がひどく幼いままである。
ペンギンはりんをそっと抱き上げると極力音を立てない様に大部屋を出ていった。
ザーという水音で用が済んだのだろうと推測する。
トイレのドアを開けて様子を伺う。
「りん?終わったか?」
「ん!」
「はい。じゃあ手を洗う」
洗面台にトコトコと向かうりんを見ながら思うのは、だいぶ背が伸びたことだ。
定期的にペンギンが骨の歪みを治す為の整体を行ったおかげか、膝の湾曲や猫背が改善された。
まだまだ治すべきところはあるが、骨の歪みのせいで痛がり嫌がっていた歩行も短距離ならするようになった。
りんが濡れた手をペンギンに差し出す。
ペンギンがその水気を備え付けのタオルで取ってやるとりんが口を開いた。
「そと、みていい?」
「外?今日は寒いぞ?」
「いい、みる!…だめ?」
「…いいや。見に行こうか」
ペンギンがまたもやりんを抱き上げると大部屋とは違う方向へ足を進めた。
甲板へ繋がるドアを開け、外へ出る。少しだけと約束をしてりんを降ろした。
「んー!ない?」
「そうだな。まだ島は遠いな。」
「むう」
りんの白い肌と体毛、そして赤い目はおそらく先天的な色素欠乏症だろうとローは結論付けた。
色素欠乏症は日光に弱く、陽があるウチは外に出させてもらえない。
それで夜は外に出てもいいと許可されていたりんはこうやって深夜出してもらうのだ。