第21章 【なみだあめ】越前リョーマ
「テニスコート探してるの?だったらグラウンドを校舎沿いにグルッと回って右側よ・・・?」
それは桜咲き乱れる4月の出来事。
入学したばかりの私は、リョーマくんに影響されて、テニスを始めようとコートに向かっていた。
だけど筋金入りの方向音痴のせいで、テニスコートまでなかなかたどり着けずに、ふぇ~ん、どこ~?、なんて迷っている私に親切に声をかけてくれたのがあの人・・・
青色のラインのネームプレート・・・2年生の先輩だ・・・
【小宮山璃音】
学年毎に色分けされたネームプレートの名前をじっと見つめて、それからその先輩の顔を見上げる。
うわぁ・・・大人っぽいなぁ・・・
しなやかでスラッと伸びた手足と、肩より少し長いツヤサラの髪を耳にかける仕草にドキッとして、優しく微笑む長いまつげの大きな瞳とぷっくらとした唇が凄く魅力的だった。
私と一学年しか違わないのに、すてきな人だなぁ・・・
それが私の小宮山先輩に対する第一印象。
春の穏やかな日差しの中、青空に負けないほど、先輩は輝いて見えた。
「あの・・・?」
「あ、ご、ごめんなさい!校舎をぐるっとで左ですね!ありがとうございました!!」
返事もせずに見惚れてしまったものだから、そんな私に少し戸惑いながら声をかける小宮山先輩に、慌ててペコリと頭を下げると、背を向けて走り出す。
「あ、ちょっとあなた!左じゃなくて右・・・あーあ、いっちゃった・・・」
あまりにも恥ずかしくて慌てていたものだから、私は先輩の道案内を聞き違え、さらにそう教えてくれた声さえも聞かずに、ただ全速力で走りつづけた。
「ハァ・・・ハァ・・・やっと着いた・・・」
散々迷って、なんとかたどり着いたテニスコート。
フェンスを握りしめて肩で大きく息をする。
あれ、でもここ・・・男子テニスコートだ・・・