第4章 【最高の1日】宍戸亮
ちょっと動くなよ、そう言って彼が大きな手で私の髪に触れるから、私の心臓はいっこうに静まることはなく、それどころかますますスピードを上げていくようで、お互いの息遣いまで感じるその距離に、この胸の鼓動と赤くなった頬を悟られたくなくて、私は俯いてぎゅっと目を閉じた。
「あ、宍戸さん、駄目ですよ!そんな無理やりやっちゃ・・・」
「うわっ!な、なんだよコレ!!」
「え・・・?」
ついさっきまで噛まれていたガムは当然凄く柔らかく、そう簡単に取れるものではなくて、それを無理やり引っ張ったものだから、もうどうにもならない状態になってしまったようで・・・。
「あ、安心しろ、こんなこともあろうかと、いつも持ち歩いているものがある。」
ひきつった顔でその髪を見る私に、気まずそうな宍戸がバッグから取り出したものは、何故か美容師さんが使うカット用のハサミ。
「・・・え?な、なに・・・?ま、まさか・・・?」
「こうなったら切るしかねぇ、お前も女だ、覚悟を決めな。」
「いやぁぁぁぁぁ!!!」
そうして、背中まであった私の髪は、彼によって肩までばっさりと切られたのだった・・・。
本当に今日は最悪な1日、そう短くなった髪に手をあて呟く私に、彼はもう一度深々と頭を下げると、鳳君と一緒に部活へと走り去った。
「本当、悪かったな・・・きれいな髪だったのによ・・・」
走り去る間際、真っ赤な顔でそう言い残して。
そして私の心臓は、また大きく鼓動を打ち始め、気がつくとその日は、最悪な1日ではなくなっていて、むしろ私にとってかけがえのない、
____最高の1日
【最高の1日】宍戸亮