第10章 【Can you marry me?】 手塚国光
「璃音」
名前を呼ばれ顔を上げると、彼が私の前に立っていた。
礼儀を重んじる彼がファンの声援に応えないのは初めてで、私は不思議な顔をする。
「・・・国光・・・?」
「ずっと、お前の声が聞こえていた。」
「こんな大歓声の中、聞こえるはずないよ?」
「いや・・・ずっと聞こえていた、世界中、どこにいても、いつもお前の声援が聞こえてくる。」
それって、国光の笑顔がわかるのは私だけなのと同じかな?って笑ったら、あぁ、そうだな、と彼も笑った。
彼が私にウイニングボールを差し出したから、観客席に投げなくていいのかな?っなんて思いながらも受け取ると、彼がもう一度口を開く。
「ずっと決めていた、ウィンブルドンの頂点に立ったらお前に告げようと・・・
結婚してほしい____」
さっきとは違う涙があふれてきて、私は国光!と彼の首に両手を回して抱きついた。
そして彼の右手が私の髪をやさしく撫でる。
観客席のほうが高いから、いつもは見上げる彼と目線が逆でなんかくすぐったい。
「国光・・・」
「なんだ?」
「優勝、おめでとう。」
「あぁ、ありがとう。」
そして私たちは唇を重ねる。
彼にむけられた歓声が私たちを祝福するものに変わった。
「約束しよう、璃音・・・かならずお前を幸せにすると。」
「私はもうずっと・・・あの思いが通じた日からずっと幸せだよ?」
「そうか・・・」
そう言って私たちはもう一度笑いあい、そしてまた唇を重ねた。
ウィンブルドンの空は青く輝いていた____
【Can you marry me?】 手塚国光