第6章 【雨の日は】不二周助
「あ、雨だから・・・髪、うねっちゃって・・・」
「あぁ、だからか、さっき英二も、髪が決まらない~って騒いでいたよ。」
そう言って彼が私の髪から手を離したから、ほっとしたようなちょっと残念なような、そんな複雑な気持ちになる。
「不二くんはいいな、雨でもサラサラで・・・私は駄目なの、すぐこうなっちゃって・・・」
両手で自分の髪をつかんで苦笑いをして見上げると、彼はいつものやさしい笑顔で私を見ていて、私は恥ずかしくてまた慌てて俯いた。
教室から、不二ぃー、と菊丸くんの呼ぶ声が聞こえ、今行く、と彼がそれに答える。
あぁ、行っちゃうんだな、なんて寂しい気持ちを押し殺し、それじゃね、と作り笑顔で手を振ると、彼は私の横を通り過ぎるその間際、いつもとは違うまなざしでそっと私の耳元に囁いた。
「僕はこういう髪も似合うと思うな、普段のストレートも好きだけど。」
え?って思わず振り返ると、彼は何事もなかったように菊丸くんと話をしていて、やっぱり私の気のせいだったのかな?なんて自分を納得させようとしたその瞬間、彼が私の方に振り返り、いつものやさしい笑顔を向けてくれたから、私も自然と笑顔になった。
雨の日は嫌い。
あの人のテニス姿は見られないし、制服はじめっとするし、気分はどんよりするし、髪はまとまらないし。
でも気が付いたら、そんな雨の日が好きになっていて、私は晴れやかな気持ちで雨空を見上げていた____
【雨の日は】不二周助