過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第9章 逢いたい
それはエルヴィンが疲れている時に
ナナシが淹れてくれていたお茶と同じ香りだった。
疲労回復の効能があると説明してくれたナナシの姿を思い出し
「まさか・・・」と思う。
お茶と一緒に運ばれたクッキーはまだ作られたばかりなのか、
僅かに温かかった。
「・・・・これを作ったのは誰だ?」
もしかしたら声が震えたかもしれない。
あんな酷いことをした自分をまだ心配してくれるのか、
という期待をしてしまう。
モブリットは真っ直ぐエルヴィンを見据えた後、
「団長が今心に描いた方からです」
と告げた。
エルヴィンはトレイを凝視した後、
張り詰めた空気を霧散させるように息を吐き、「そうか」と微笑った。
こんないじらしいものを寄越されて突き返せるはずがない。
エルヴィンが無言でいると、モブリットは良い笑顔で
「トレイは後で回収に来ますね」と言って去って行ってしまった。
まるでエルヴィンがこれを受け取らないはずがないと
確信しているような態度で。