過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第36章 ナナシの遺したもの
日が昇って暫く経っても、エルヴィンはその場を動けず
嗚咽を漏らし続けたが、兵士達が起床する時間になると、
のろのろと緩慢な動作で風呂場に行き、頭から冷水を被った。
風呂場から出て兵団服を纏い、いつものように
キッチリ身支度を整えると、執務机に置きっぱなしにしていた
『心臓』を金庫に仕舞い、やりかけだった仕事を始めた。
書類に筆を走らせていると、廊下から不機嫌そうな足音が
複数聞こえてきて、乱暴に執務室の扉が開いた。
「ちょっと、エルヴィンっ!もうこんな書類やってらんないよっ!」
開口一番そう声を荒らげたのはハンジで、抱えていた書類の束を
乱暴に机に置いた。
共に来たリヴァイとミケ、ナナバも不機嫌そうに無言で
書類の束を机に置く。
「昨日はナナシとお楽しみだったかもしれないけど、急に・・
・・・って、エルヴィン?」
そこで漸く三人はエルヴィンの様子に気づいた。
いつものようにキッチリと身支度はされているが、
その目は腫れぼったく、彼が泣いていたのだとすぐ察せられたからだ。
そして四人に嫌な想像が過る。
「・・・ねぇ、ナナシは?まだ・・・仮眠室で寝てるのかな?
それとも、もう自分の部屋に・・・・?」
ナナバが冷静さを取り繕いながら尋ねたが、
エルヴィンから与えられたのは残酷なものだった。