過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 後編】
第10章 眷属達の想い
しかし、いざゲームを始めてみると相手の腕に舌を巻いた。
ジャックは勝負にチェスを選んだだけあって、
かなりのやり手だった。
これが何の見返りもない遊びのゲームだったら、
さぞ楽しいものだったろうが、ナナシの情報を得たい今は
楽しくもなんともない。
・・・しかも
「ナナシ様は、貴方様の事がお嫌いなようですね。
私達にもそう零しておいででした」
「・・・チェスのルールでは私語は厳禁だったはずだが」
「これは失礼。短い時間しか貴方様と語り合えない悲哀を
汲み取って頂けるとありがたいのですが・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ゲーム中、彼は心理戦まで仕掛けてきていた。
エルヴィンの神経を逆撫でするような言葉を紡ぎ、
冷静さを削ぐという質の悪い戦法をとる。
エルヴィンも本気で潰したい相手に使う手法だが、
ジャックの弱みがわからない今の自分には使えなかった。
結局、あっという間に冷静さを欠き、
ワンゲーム落とす結果となりエルヴィンは歯噛みする。
「続けて二戦目に行きますか?それとも少し休憩されますか?」
ジャックにそう問われ、エルヴィンは直ぐ様再戦を希望する。
彼の言葉に惑わされないように自分のペースを取り戻さなければ・・・
と考えながら、エルヴィンは駒を取った。