第1章 銀魂/近藤勲
「あら、ここも売り切れだわ……」
コンビニの品出しをしていると、弱々しい声が聞こえた。
傘を売っている場所でポニーテールの綺麗な女性が、困った顔をして立っていた。
横顔だったが、私は彼女が近藤さんの好きな女性であることに気が付いた。
まじかよっ。
こんなところで出くわす?
あっちは私のこと知らないからいいかもしれないけど
私はお前のことを知ってるよ!!
黒い感情が渦巻いた。
なんで今日に限って雨なんて降るかな……。
苦虫を潰したような顔をしていることに気が付き、頭を振る。
彼女の髪の毛から滴る雫を見て、雨に打たれたんだなって思った。
予報外れの豪雨に客はみんな傘を買っていった。
最近天気予報が外れるけど、いったいどうしちゃったの結野アナ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
私は店の奥に消えて、自分のロッカーを漁った。
いつも常備している折りたたみ傘を手に取る。
クローバー柄の折りたたみ傘。
『……っ』
私は唇を噛みしめて、それを強く握りしめた。
そして、彼女に持って行った。
『これ、使ってください』
彼女は一瞬驚いた表情になって、私は無理やり彼女の手に傘を握らせた。
『返さなくて大丈夫です。どうぞ、受け取ってください』
「でもそれじゃああなたが……」
『本当に大丈夫ですから。もう一本持っていますから、気にしなくて大丈夫です。もらって下さい』
早口で捲し立てる。
彼女は少し悩んだ後、お日様みたいに優しく微笑んでお礼を言った。
店を出て行く彼女の後姿を眺め、
彼女の姿が見えなくなった後もずっと店の外を眺めた。
一筋の涙が頬を伝った。
fin.