第28章 第27セット
それから自主練に優さんが来る度に話しかけて、及川さんが教えてくれないサーブのコツを聞いたり、トスについて聞いたりした。
優さんも俺のことをよく気にかけてくれた。
そして俺の中で『憧れの人』に『師匠』という言葉が付け足された。
練習を重ねるたび、少しずつ上手くなって、
成長を見つけるたび、優さんは褒めてくれて
それが何より嬉しくて、
優さんの笑顔が見たくて、
いつしか俺の中の『憧れの人』『師匠』に
『好きな人』が加わった。
けどある日、気づいてしまった。
優さんの瞳に、俺は“後輩”としてしか映っていないと。
優さんの瞳はいつも、及川さんをとらえていて
及川さんも優さんをとらえていた。
けれど二人は付き合ってなかったし、
付き合おうともしなかった。
そして俺は何もすることができないまま、
先輩たちは卒業した。