第21章 波の国、帰還
なんだか重大なことに気がついた気がして、思考の渦から抜け出しルウさんをみると、彼は暁の隊服を脱いで畳の上に正座をしていた。
「えっと、どうかした?」
戸惑いながら問うと、るうさんはいきなり両手を畳に付いたかと思うと、勢いよくそのまま頭を下げたのだ。
いわゆる「土下座」である。
「え、ちょ、っ、ルウさん!?なにしてっ…!」
「悪かった」
「え」
「暁に入るのが悪いことだとは思ってなかった。暁には強い奴らがいて、そいつらのとこに行けば俺はもっと強くなれると思ったんだ。そんで、そんで……」
ルウさんはそこで言葉をとめた。
止めたものの、まだ何か言おうという意識は感じられるので、じっと黙って見守る。
ルウさんの吐く息が聞こえる。
「お前の、ミユキの、…やくに、立ちたかった。俺を助けるために動いてくれている、お前の」
それは小さな声だった。
呟き程度の。それこそ物体にしたならば風で飛ばされてしまいそうなほど弱いものだった。
しかし、それはわたしの心を締め上げる。
きゅうきゅうとなる心臓が、うるさいし、痛い。
けれどどこかここちよかった。
「ルウさん」
感情を抑えて呼びかけた声は、思いの外低い。
ルウさんはびくりと肩をふるわせた。
「ルウさん。わたしこそ、どなってごめん。ルウさんが暁にはいるのは自由だし、今考えたら、ルウさんは暁にいた方がいいと、思う」
「え…?」
声と戸惑いの声とともにあげられた顔。
その顔に涙はない。
「ルウさんは暁にいても、わたしを助けてくれるんでしょう?」
首を傾げて聞けば、必死な顔で、何度も何度もルウさんが首を縦に振った。
その様子がなんだかおかしくって思わず苦笑する。
それにつられたようにルウさんも笑顔を浮かべて「悪かった」なんて謝るから、「これから働いてもらうからいいよ」と軽口で返した。
二人の間にある空気はなかなかに穏やかなものだったという。